整調が出来上がると次は整音作業です。ハンマーヘッドは圧縮された羊毛フェルトが固く巻き付いてできていますが、これにピッカーと呼ばれる工具で針を刺し、フェルトの硬さの調整=音色の調整をしていきます。(新品のハンマーヘッドは最初とても硬いので、この針刺し作業がなかなか大変です!)

pp〜ffまで柔軟に音色が変化し、かつホールの隅々まで音が届くよう十分なパワーを持ったサウンドを目指しますが、もちろん適当に針を刺していくだけではうまくいきません。多彩な音色の変化を可能にするフェルトの弾力と、力強さを生み出す芯の硬さを両立させる必要があります。
また、整音作業の進み具合に応じてハンマーヘッドのどの箇所にどんな角度で針を刺すべきかが随時変化していくため、よく音を聴き、ハンマーの硬度を耳でも手でも感じながら作業していきます。またこれが整音の難しいところなのですが、ハンマーに針を刺しすぎてフェルトの繊維が崩れてしまうと音のパワーがなくなってしまい、もう元の硬さに戻ることはありません。そのため、慎重さと大胆さの両方が必要になる作業です。

ハンマーに針を刺していくと固く巻き付けられていたフェルトが少しずつ緩んでハンマーが膨らんでいきますが、このハンマーの形も音に影響する重要な要素。膨らんで丸くなったハンマーではなかなか輝きのある音が出ません。時折紙やすりで修正し、理想の形状をキープします。
これらの作業を通して、どのようにして技術者がピアノのコンディションを整え、音色やタッチを作っていくかのプロセスを改めて学ぶことができます。

研修中は担当の方にご説明いただきながら工場内を巡るファクトリーツアーの時間もあります。
スタインウェイはピアノ設計・製造に関して数多くの画期的なアイディアを生み出し、その特許を取得しましたが、その当時そのままの製法が今も守られていることがよくわかります。

スタインウェイの創業者ヘンリー・E・スタインウェイの有名な肖像画を再現したフォトスポットもありました!
工場内にはきれいな食堂があり、研修中はここで朝食や昼食を取ることができます。メニューはシュニッツェルのようなドイツ料理やパスタなどからいろいろ選べ、どれを食べてもとても美味しかったです。
紙ナプキンもロゴ入り!

2週間の研修中、土日は工場も研修もお休みですので、街中に出てハンブルク観光に行くことができます。せっかくのクラシック天国・ドイツですので、ハンブルクを代表する2つのコンサートホール、LaeishalleとElbphilharmonieに今回伺いました。

LaeishalleではKleiner Saal(小ホール)のソワレ、弦楽四重奏団とピアノのコンサートに伺いました。約120年前に完成した、伝統的でとても美しい建物です。内部の美しい装飾も必見で、現代のコンサートホールとは異なる、歴史のあるホールならではの親密な響きを楽しむことができます。

一方、2017年オープンとまだ新しいコンサートホールElbphilharmonieのGroßer Saal(大ホール)では、マチネでオーケストラとピアノコンチェルトのコンサートに伺いました。外観もそうですが内部も非常に複雑かつ多層的な、美しい建築です。非常にモダンでリッチな響きのコンサートホールですが、同時に一つ一つの楽器が細かく聴こえてくるような、素晴らしい音響のホールです。ハンブルクを訪れた際には一度は訪れてみたいコンサートホールですが、その分大変な人気スポット。特にGroßer Saalの公演は非常に人気が高くほとんどのコンサートがソールドアウトしてしまいますので、早めにチケットを確保する必要があります。
後日ホールに常駐しているスタインウェイ技術者の方にバックステージツアーもしていただきました。楽屋もナイスビュー!


おまけで、ハンブルク美術館ではポリーニの名盤 シューベルト/さすらい人幻想曲のアルバムジャケットに使われた絵の実物を拝むことができます。ポリーニファンならビビッときますね!私はあの録音の第2楽章がとても大好きです。
今回の研修を通して、まず世界的にピアノ及びピアノパーツの価格が大きく上昇している中、新品のハンマーヘッドを使って1台のピアノに時間をかけてじっくり向き合うこと自体が技術者にとっては非常に貴重な機会です。
また、工場やオフィスのSteinway & Sons従業員一人ひとりが”The World’s Finest Piano”のために誇りや責任感を持って働いていることが強く感じられ、スタインウェイピアノに従事する技術者として改めて身の引き締まる思いをしました。
2026年3月