タッチ
アクションメカニズムの発達
1932年のある日、スタインウェイのアクションについて、卓越した完成度であると、かねてから絶賛していたアメリカのピアニスト、作曲家、発明家であるジョゼフ・ホフマンがスタインウェイ・ホールに来館して次のように言いました。「レスポンスの速さが十分ではない。レスポンスをもっと敏感にできないだろうか?」
ホフマンの要求は、スタインウェイピアノが他社製よりもレスポンスが良く、敏感なピアノになる、大きな契機となりました。C.F.セオドア・スタインウェイの甥の子孫にあたるフレデリック・ヴィーターが改良したスタインウェイの加速アクション―アクションを動かす際に強い力ではなく、軽いタッチでも反応するよう開発した―によって、ホフマンの願いは叶えられました。
研究によると、スタインウェイピアノの鍵盤は、他社製のピアノに較べて13%速い反復が可能となっています。この反復の速さを可能にしている特性によって、さらに敏感でレスポンスの良い鍵盤となり、初心者にとっても演奏しやすいピアノとなっています。
スプルースはスタインウェイにとって重要な鍵となっています。また柾目の木材でつくられたアクションのパーツが取り付けられている金属アクションフレームは、継ぎ目のないロゼット型の真鍮製チューブと、木材のダボ、そして真鍮製ハンガーから構成されています。これによって安定した整調が可能になっています。
バルトロメオ・クリストフォリによる1720年頃のピアノフォルテ(フィレンツェ)
このアクションは、当時としては驚くほど完成されたものであった。
鍵盤を押し込むと稼働式レバーが自動的に脱落し、ハンマーが最大の力で弦を打つと、バックチェックがブレーキの役割をして元のポジションに収まる。
ヨハン・アンドレアス・シュタインによる1770年頃のウィーン式アクション(アウクスブルク)
このアクションは、ピアノ製造に於いて一世紀以上もの間、主流を占めていた。
ハンマーは、鍵盤後部についている可動式の受け台の中に付いている。鍵盤が押されるとハンマーシャンクテールがエスケープメントの先端によって解放され、鍵盤に固定されたハンマーフレンジがハンマーシャンクを上方に押し上げてハンマーが弦を打つ。鍵盤が通常の静止ポジションに戻ると、ハンマーシャンクテールは最初の位置に戻る。
ヘンリー・スタインウェイ・ジュニアの特許によるグランドピアノのアクション(ニューヨーク)
このアクションには、ウィペンやフレンジ・レペティション・サポートが採用された。
このアクションには、フレンジが付いたフレームに固定されたウィペンやレペティション・サポートが採用され、接続部によって鍵盤から上方に跳ね上げられる。鍵盤が通常の静止ポジションに戻るとスプリングを装着したバランサーが、レペティションレバーの反復を補助する。スプリングを装着したレペティションレバーは別途レペティション・サポートに連結している。
ヘンリー・スタインウェイ・ジュニアの特許によるグランドピアノのフランス式アクション(ニューヨーク)
このアクションには、ダブル・エスケープメント・アクションが採用された。
このアクションには、改良されたダブルスプリングがレペティションレバーに装着された「エラール・システム」(ストラスブール)とアンリ・エルツ(パリ)によるバランサーを統合したものが採用された。このレペティションレバーのおかげで強いフォルティシモが可能となり、調節可能なバランサーによりピアニシモを演奏できるようになった。
鍵盤が静止ポジションに戻るのを待たずに連打が可能。エスケープメントは時計製造の用語であるが、ピアノでは、リリースを可能にするメカニカルなシステムの意味で使われる。
C.F.セオドア・スタインウェイによるグランドピアノのアクション(ニューヨーク)
このアクションには、世界最初の金属アクションフレームが採用された。
特許を取ったロゼット型のアクションレールに使用された真鍮製の「チューブ状金属アクションフレーム」、フレンジ、銅製のアクションブラケット、そしてレットオフ・レギュレーション・スクリューループが初めてこのモデルに使われた。ロゼット型のアクションレールとフレンジは、フレンジ・スクリューを締めると自動的に同調するので気候の変化に強くなった。
C.F.セオドア・スタインウェイによるグランドピアノのアクション(ニューヨーク)
このアクションには、特許を取ったキャプスタン・スクリューが採用され、現代ピアノの始まりとなった。
キャプスタン・スクリューを回してレペティション・サポートとハンマーを調整できるようになった。キャプスタン・スクリューのおかげでアクション全体を取り外すことが容易となり、鍵盤の調整が可能になった。この方式は今日まで受け継がれている。
1875年 / キャプスタン・スクリューを採用
1911年 / レギュレイティング・スクリューとレギュレイティング・ボタンが追加
1931年 / 現在では加速アクションと呼ばれている新タイプのアクション(略称N.A)は、丸くされた“てこ”の支点と鍵盤の下にあるバランスレールが一体化。それにより鋭敏なタッチと速い反復を実現した。テストの結果、アクションスピードがフォルティシモで14%、ピアニシモで6%速くなった。
1983年 / 「パーマフリーII」アクションを中心に配置(センターピン・ブッシングにエムラロンを染み込ませた)。テフロンを液体状にしたエムラロンは摩耗を軽減し、摩擦をなくす。
1992年 / 「ニューヨーク工場で改良された」アクションパーツの配置(てこ装置と製造時の正確さの改良)
2006年 / バックチェック、ハンマーローラー、レペティションレバーにエクセーヌ(人工皮革)を使用することにより、アクションの音が静かになった。
2008年 / 最高のピアノのアクションパーツをつくるため、パーツ部門の環境制御システムの導入及びパーツのサイズの許容誤差をコンピューターで毎日、計測。